- 万葉集
今朝の朝明雁が音聞きつ春日山もみちにけらし我が心痛し
雲の上に鳴きつる雁の寒きなへ萩の下葉はもみちぬるかも
露霜の寒き夕の秋風にもみちにけらし妻梨の木は
雁がねの来鳴きしなへに韓衣龍田の山はもみちそめたり
雁がねの声聞くなへに明日よりは春日の山はもみちそめなむ
秋萩の下葉もみちぬあらたまの月の経ぬれば風をいたみかも
妹が紐解くと結びて龍田山今こそもみちそめてありけれ
天地の 遠き初めよ 世間は 常なきものと 語り継ぎ 流らへ来たれ
天の原 振り放け見れば 照る月も 満ち欠けしけり
あしひきの 山の木末も 春されば 花咲きにほひ
秋づけば 露霜負ひて 風交り もみち散りけり
うつせみも かくのみならし 紅の 色
もうつろひ ぬばたまの 黒髪変り 朝の笑み 夕変らひ
吹く風の 見えぬがごとく 行く水の 止まらぬごとく 常もなく
うつろふ見れば にはたづみ 流るる涙 留めかねつも
言とはぬ木すら春咲き秋づけばもみち散らくは常をなみこそ [一云 常なけむとぞ]
この里は継ぎて霜や置く夏の野に我が見し草はもみちたりけり
天雲に雁ぞ鳴くなる高円の萩の下葉はもみちあへむかも
- 古今和歌集
いとはやも/なきぬるかりか/白露の/色とる木々も/紅葉あへなくに 読人不知
おく山に/紅葉ふみ分/鳴鹿の/こゑきく時そ/秋はかなしき 読人不知
ちはやふる/神なひ山の/紅葉はに/思ひはかけし/うつろふものを 読人不知
雨ふれは/かさとり山の/紅葉はゝ/行かふ人の/袖さへそてる 忠岑
ちらねとも/かねてそおしき/紅葉はゝ/今は限の/色とみつれは 読人不知
秋霧は/けさはなたちそ/さほ山の/はゝその紅葉/よそにてもみん 読人不知
さほ山の/はゝその紅葉/ちりぬへみ/よるさへみよと/てらす月影 読人不知
龍田川/紅葉みたれて/なかるめり/わたらは錦/中やたえなん 読人不知/平城天皇
龍田川/紅葉はなかる/神なひの/みむろの山に/時雨ふるらし 読人不知/人麿
戀しくは/見てもしのはん/紅葉はを/吹なちらしそ/山おろしのかせ 読人不知
あきはきぬ/紅葉はやとに/ふりしきぬ/道ふみ分て/とふ人はなし 読人不知
ふみ分て/さらにやとはん/紅葉はの/ふりかくしてし/道と見なから 読人不知
秋の月/山へさやかに/てらせるは/おつる紅葉の/かすをみよとか 読人不知
わひ人の/分て立よる/このもとは/たのむかけなく/紅葉散けり 遍昭
紅葉はの/なかれてとまる/みなとには/紅ふかき/※浪やたつらん/※浪そたちける 素性
みる人も/なくて散ぬる/おく山の/紅葉はよるの/錦成け 貫之
秋の山/紅葉をぬさと/たむくれは/すむ我さへそ/たひ心ちする 貫之
山河に/風のかけたる/しからみは/なかれもあへぬ/紅葉成けり 列樹
風吹は/おつる紅葉は/水きよみ/ちらぬかけさへ/底に見えつゝ 躬恒
たちとまり/みてをわたらん/紅葉はゝ/雨と降とも/水はまさらし 躬恒
紅葉ゝは/袖にこき入て/もていてなん/秋はかきりと/見ん人のため 素性
としことに/紅葉はなかす/龍田川/みなとや秋の/とまり成らん 貫之
此たひは/ぬさもとりあへす/たむけ山/紅葉の錦/神のまに〈まに〉 道真
手向には/つゝりの袖も/きるへきに/紅葉にあける/神やかへさん 素性
ちゝの色に/うつろふらめと/しらなくに/心し秋の/紅葉ならねは 読人不知
打つけに/さひしくもあるか/紅葉はも/ぬしなき宿は/色なかりけり 能有
紅葉はを/風にまかせて/みるよりも/はかなき物は/命成けり 大江千里
君かさす/みかさの山の/紅葉はのいろ/神な月/時雨の雨の/そめるなりけり 貫之
つくはねの/嶺の紅葉は/落つもり/しるもしらぬも/なへてかなしも 読人不知
- 新古今和歌集
見わたせは/花も紅葉も/なかりけり/浦のとまやの/秋の夕暮 藤原定家朝臣
下紅葉/かつちる山の/夕時雨/ぬれてやひとり/鹿のなくらん 藤原家隆朝臣
いつのまに/紅葉しぬらん/山桜/昨日か花の/ちるを惜し 中務卿具平親王
うす霧の/立まふ山の/紅葉はゝ/さやかならねと/それとみえけり 高倉院
おもふ事/なくてそみまし/紅葉はを/嵐の山の/ふもとならすは 藤原輔尹朝臣
故郷は/ちる紅葉はに/うつもれて/軒のしのふに/秋風そふく 源俊頼朝臣
紅葉はゝ/色にまかせて/ときは木も/風にうつろふ/秋の山哉 春宮権大夫公継
露時雨/もる山陰の/下紅葉/ぬるともおらん/秋のかたみに 藤原家隆朝臣
散かゝる/紅葉の色は/ふかけれと/わたれはにこる/山川の水 二條院讃岐
紅葉はを/さこそ嵐の/はらふらめ/此山もとも/雨とふるなり 権中納言公経
行秋の/形見なるへき/紅葉はも/あすは時雨と/降やまかはん 権中納言兼宗
うちむれて/ちる紅葉はを/尋ぬれは/山路よりこそ/秋は行けれ 前大納言公任
神無月/かせに紅葉の/ちる時は/そこはかとなく/物そ悲しき 藤原高光
名とり川/やなせの浪も/さはく成/紅葉やいとゝ/よりてせくらん 源重之
たかせ舟/しふくはかりに/紅葉はの/なかれてくたる/大井川かな 藤原家経朝臣
木枯の/音に時雨を/きゝわかて/紅葉にぬるゝ/袂とそみる 中務卿具平親王
まきの屋に/時雨の音の/かはるかな/紅葉やふかく/散つもるらん 入道左大臣
ほの〈ほの〉と/有明の月の/月影に/紅葉吹おろす/山おろしのかせ 源信明朝臣
紅葉はを/何おしみけむ/木のまより/もりくる月は/今夜こそみれ 中務卿具平親王
紅葉はを/をのか染たる/色そかし/よそけにをける/今朝の霜かな 前大僧正慈圓
山里は/道もやみえす/成ぬらん/紅葉とゝもに/雪のふりぬる 藤原家経朝臣
けふこすは/みてやゝまゝし/山里の/紅葉も人も/常ならぬ世に 前大納言公任
我戀も/今は色にや/出なまし/軒のしのふも/紅葉しにけり 花園左大臣
かすむらん/程をもしらす/時雨つゝ/過にし秋の/紅葉をそみる 女御徽子女王
今こんと/たのめつゝふる/ことの葉そ/ときはにみゆる/紅葉成ける 村上天皇
思ひやる/よそのむら雲/時雨つゝ/あたちの原に/紅葉しぬらん 重之
あまの川/かよふ浮木に/ことゝはむ/紅葉の橋は/ちるやちらすや 藤原實方朝臣
あらしふく/嶺の紅葉の/日にそへて/もろく成行/わか涙かな 皇太后宮大夫俊成
千世迄も/心してふけ/紅葉はを/神もをしほの/山をろしの風 藤原伊家
- 俳句
色付くや豆腐に落ちて薄紅葉 芭蕉
よらで過(すぐ)る藤沢寺のもみじ哉 蕪村
日の暮の背中淋しき紅葉かな 一茶
- 俳句
大紅葉燃え上がらんとしつつあり 高浜虚子
いま写します紅葉が散ります 種田山頭火
紅葉明るし手紙よむによし 尾崎放哉
大木にして南(みんなみ)に片紅葉 松本たかし
薄紅葉恋人ならば烏帽子で来 三橋鷹女
この樹登らば鬼女となるべし夕紅葉 三橋鷹女
恋ともちがふ紅葉の岸をともにして 飯島晴子
すさまじき真闇となりぬ紅葉山 鷲谷七菜子